マーケティングリサーチやユーザー調査、広告効果測定において、「ある要素と別の要素はどれくらい関係しているのか?」という問いは頻繁に登場します。この「関係の強さ」を数値として可視化するのが、相関係数(correlation coefficient)です。特に「Pearsonの積率相関係数(ピアソン相関係数)」は、最も広く使われている統計指標の一つですが、その本質や正しい使い方を誤解しているケースも少なくありません。
本記事では、数式の意味から実務での使い方、注意点、有意性の判断方法まで、相関係数について深く・丁寧に解説します。
相関係数とは何か?
相関係数とは、2つの変数がどれくらい「一緒に増減する傾向(直線的関係)」があるかを、−1.0〜+1.0の数値で表したものです。
| 相関係数の値 | 解釈例 |
| +1.0 | 完全な正の相関(変数Aが増えると、変数Bも必ず増える) |
| 0 | 無相関(変数AとBは独立に変動する) |
| −1.0 | 完全な負の相関(Aが増えると、Bは必ず減る) |
相関の例:直感的な理解
・正の相関(+)
→ 商品の「価格」と「高級感」
→ 高いと感じるほど、高級だと感じる人が多い
・負の相関(−)
→ 製品の「重さ」と「携帯性」
→ 重ければ携帯性が悪いと評価される傾向
・無相関(0付近)
→ 飲料の「パッケージ色」と「味の評価」
→ 色と味の評価に明確な関連がない場合
Pearsonの相関係数の数式とその意味
計算式(定義)
\(r = \frac{\sum (X_i – \bar{X})(Y_i – \bar{Y})}{\sqrt{\sum (X_i – \bar{X})^2} \cdot \sqrt{\sum (Y_i – \bar{Y})^2}}\)ここで
・r:相関係数(−1〜+1)
・\(X_i\), \(Y_i\):各データ点(観測値)
・\(\bar{X}\), \(\bar{Y}\) :それぞれの平均値
・分子:XとYの共分散
・分母:XとYの標準偏差の積
この式が意味しているのは:
・それぞれの変数が「平均からどれくらいズレているか」
・そのズレ方が「同じ方向かどうか」(片方が上がるともう片方も上がるか?)
つまり、「XとYが一緒に平均より高い/低い方向にズレているかどうか」を計算しているわけです。
数値例(簡易)
| 回答者 | パッケージ好感度(X) | 購入意向(Y) |
| A | 4 | 5 |
| B | 3 | 3 |
| C | 2 | 2 |
| D | 5 | 5 |
| E | 1 | 1 |
この例では、XとYが完全に同じ動きをしています。相関係数を計算すると、**r = +1.0(完全な正の相関)**となります。
相関は因果ではない──傾向の「読み取り」である
相関 ≠ 原因
相関係数は、あくまで「数値の並び方に法則性があるか」を表すだけであって、「AがBを引き起こした」とは言えません。
例:アイスの売上と海水浴客数
・暑い日にはアイスも売れるし、海にも人が行く → 強い相関がある
・でも「アイスが売れるから人が海に行く」わけではない
・背後の「気温」という第3の因子(交絡変数)の存在がある
相関係数の使い方とマーケティングでの応用
実務での代表的な使用場面
相関係数が実務でどのように使われているかについて、特に以下の2つのシーンを中心に、具体例・設問設計・分析の進め方・注意点を含めて詳細に解説します:
パッケージ評価と総合評価:購買判断への影響度を探る
【どういう場面で使われるのか?】
・新商品発売前のパッケージテスト
・パッケージ刷新時のA/Bテスト
・リニューアル後のブランドイメージ再構築
目的は、「パッケージの印象が、商品全体の評価にどの程度影響を与えているか」を明らかにすることです。
【どんな設問設計で評価するか?】
| 評価項目 | 設問例 | 尺度 |
| パッケージデザインの好感度 | 「このパッケージは好ましいと感じますか?」 | 5段階(非常に好ましい〜全く好ましくない) |
| 総合評価(商品全体) | 「この商品を総合的に評価すると何点ですか?」 | 0〜10点または100点 |
※場合によっては、パッケージに関する複数の観点(色・フォント・形状など)を項目別に設けて要素分解することもあります。
【相関係数でどう分析するか?】
パッケージの好感度(X)と総合評価(Y)を用いて、Pearsonの相関係数を計算。
r = 0.72 のような結果が得られた場合:
→ パッケージの好意が強いほど、総合評価が高い傾向が強く見られる
→ 改善インパクトが大きい重要要素と見なせる
実務的な考察と活用ポイント
【改善施策の優先順位づけ】
・パッケージの相関が高ければ、見た目の変更が「商品全体の印象」改善に直結する可能性が高い。
・パッケージの相関が低ければ、商品の中身(味・成分など)が評価を左右していると推定できる。
【A/B比較における裏付け】
旧パッケージ vs 新パッケージで、総合評価の差だけを見るだけでなく、相関の構造がどう変化したかを見ることで、「印象の変化の質」も捉えられる。
注意点
| 注意点 | 解説 |
| 感情バイアス | 見た目の第一印象が強く働きやすく、「味」などの中身が過小評価されるリスク |
| 購買意向との関係を混同しない | 総合評価と実際の購入意向は別物。評価が高くても購買に至らないケースは多々ある |
| 回答者の直感性 | 見た瞬間の印象で判断するため、実物での評価か画像だけかによって印象が大きく異なる可能性 |
広告要素とブランド好意度の関係:広告がブランドにどう効いているか?
【どういう場面で使われるのか?】
・テレビCMやデジタル広告の効果測定
・新しい広告キャンペーンのクリエイティブ評価
・ブランド再構築における広告の貢献度の測定
目的は、「広告の印象要素が、ブランドに対する好意形成にどれほど関わっているか」を明らかにすること。
【設問設計の具体例】
| 評価項目 | 設問例 | 尺度 |
| 広告の印象 | 「この広告は親しみやすいと感じましたか?」「広告に信頼感を持ちましたか?」 | 5段階 |
| ブランド好意度 | 「このブランドをどの程度好きですか?」 | 5段階または7段階 |
※広告印象は、複数の感情軸(面白い/印象的/信頼できる/新しさ)で構成することが多い。
相関係数の使い方
各広告印象項目(複数)と、ブランド好意度との相関をそれぞれ算出
例:
「親しみやすい」×「ブランド好意度」 → r = 0.65
「新しさを感じた」×「ブランド好意度」 → r = 0.20
→ どの広告印象がブランド好意度に強く貢献しているかが定量的に分かる
実務的な考察と活用ポイント
| クリエイティブ改善のヒントに | 相関の高い要素に注力することで、「好まれるブランド作り」に資する表現要素が見えてくる。 |
| 媒体別評価とのクロス分析 | TVとYouTubeで、同じ広告を見せた場合に相関構造がどう変わるかを見ることで、媒体ごとの伝達特性(音声・視覚・流し見)が評価できる。 |
| ブランド属性への誘導設計 | ブランドの理想像(信頼性、革新性など)と合致する広告印象要素に注力することで、ブランド資産の構築に貢献。 |
注意点
| 注意点 | 解説 |
| 接触有無の確認 | ブランド好意度が高い人ほど広告に好印象を持ちやすい傾向があり、逆因果に注意。広告接触者/非接触者を分ける必要あり。 |
| 重複効果 | 印象項目間が高相関(例:「親しみやすい」と「信頼できる」)の場合は、因子分析などでまとめる処理が必要になることも |
| スコアの頭打ち | 広告に強く好意を持つ層では、好意度の上限(スケールの壁)で相関が見えにくくなることがある(フロア/シーリング効果) |
相関の「強さ」と「有意性」──数字をどう読むか
相関の強さの目安(実務的な感覚)
| rの範囲 | 解釈 |
| 0.00〜0.19 | 非常に弱い(実務で使うには注意) |
| 0.20〜0.39 | 弱い相関 |
| 0.40〜0.69 | 中程度の相関(参考にできる) |
| 0.70〜0.89 | 強い相関(実務でも注目) |
| 0.90以上 | 極めて強い相関(同一因子の可能性) |
有意水準とは?
「この相関は偶然ではなさそうだ」と統計的に判断できるかどうかを、p値で確認します。
例:
・相関係数:r = 0.45
・サンプル数:n = 500
・統計検定で p < 0.01
→ この相関は統計的に有意(信頼してよい傾向)
有意と実務的意義の違い
・大きなサンプルでは、小さな相関(r = 0.10)でも有意になる
・ただし、実務上その関係に「意味があるか」は別問題
→ 相関の有意性(p値)と、相関の強さ(r値)を両方確認することが重要
相関係数の注意点と限界
| 注意点 | 補足 |
| 外れ値の影響 | 1つの極端な値でrが大きく変動する可能性あり |
| 非線形関係には弱い | カーブ型の関係(例:中間が最も評価が高い)は捉えられない |
| 多重相関に注意 | 複数の評価項目間で相関が強すぎると分析の独立性が失われる(VIFチェックが必要) |
| 尺度の不一致 | 異なる尺度間でも相関は計算できるが、意味のある解釈ができるかは別問題 |
まとめ:相関係数を読み解くことは、仮説の解像度を高めること
相関係数は、単なる統計指標ではありません。消費者の感情や意識、製品評価の「背後にあるつながり」を見出すための、洞察の入り口です。しかし、その読み方を誤ると、因果を勘違いしたり、無意味な対策に走ってしまうこともあります。だからこそ、相関係数は「仮説の精度を高めるツール」として、正しく・深く・慎重に扱うべきものなのです。
まとめ
・相関係数は「2つの変数の動きの傾向の強さ」を数値化する指標
・Pearson相関係数は、平均からのズレと方向の一致度を評価
・因果関係を示すものではなく、傾向を見るための道具である
・有意性検定(p値)とr値の強さの両方を解釈する必要がある
・マーケティングでは、製品評価、広告印象、購入意向などとの関係把握に活用できる
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