【専門解説】NPSとは?─「勧めたいか?」という問いの意味

──「勧めたいかどうか」だけでブランドロイヤルティを測れるのか?

マーケティングリサーチの現場で、顧客ロイヤルティの指標として広く使われている「NPS(Net Promoter Score)」。シンプルな質問で測定できる反面、文化的・構造的な理解が浅いと、誤った解釈や施策判断を招く恐れもあります。
本記事では、NPSの基本構造から実務での使いどころ、文化・国民性の影響、分析上の注意点まで、専門家向けに深く解説します。

NPSとは何か?──「勧めたいか?」という問いの意味

NPS(ネット・プロモーター・スコア)は、顧客の推奨意向(他人に勧めたいか)を通じて、ブランドへのロイヤルティや愛着度を測る指標です。

質問形式(この1問だけで測定)

「このブランド(商品・サービス)を、友人や同僚にどの程度おすすめしたいと思いますか?」
回答:0点(まったく勧めたくない)〜10点(ぜひ勧めたい)の11段階評価

回答者分類とスコア算出

点数区分説明
9〜10点プロモーター(推奨者)積極的にブランドを勧めてくれる
7〜8点パッシブ(中立)不満はないが、推奨までは至らない
0〜6点ディトラクター(批判者)不満・否定的。ブランドへの忠誠心が低い
\(
\text{NPS} = \% \,\text{プロモーター} – \% \,\text{ディトラクター}
\)
なぜ「勧めたいか」が重要なのか?

・購入経験以上に、他人に勧められるかどうかは信頼の証
・「推奨」は、リスクをとってブランドを背負う行為
・だからこそ、顧客満足以上に“本音のロイヤルティ”が出やすい

NPSの実務的な使い方──ロイヤルティの定点観測と競合比較

NPSはスコアそのものの“絶対値”よりも、変化や比較に意味がある指標です。基本的には「相対比較」や「時系列推移」で使います。
実務での活用パターン:

活用軸説明
時系列分析NPSを毎月/四半期で測定し、改善活動の成果を見る
競合比較同カテゴリ内ブランドのNPSを比較し、自社のポジションを把握
絶対値での単独評価10点満点でも、文化によって分布が異なるため意味が限定的

 実務での導入例:
・携帯キャリア:NPSを月次でトラッキングし、プラン変更時のロイヤルティ変化を分析
・スーパー:惣菜コーナーの改善後、NPSを取得し、「顧客満足→推奨意向」の接続度を検証
・家電量販店:複数チェーンでNPSを比較し、顧客接点(接客/陳列)の改善ポイントを発見

文化的・国民的なバイアス──日本ではNPSが低く出る?

 「勧めたいか」という問いは文化的に解釈が異なる

NPSのベースとなる「推奨意向」は、その国・文化における“推薦行為”の心理的ハードルに大きく影響を受けます。

例:日本における傾向
・「勧める」行為に慎重:自分が責任を負う感覚がある
・高評価でも「他人に勧める」は別問題
・結果として、NPSが低く出やすい国民性がある(実際、日本の平均NPSは他国よりも低水準)

 国際比較では慎重な読み解きが必要

同じブランドでも、国によってNPSが大きく異なるのはよくある現象です。

NPS傾向備考
日本低め慎重、控えめな国民性
アメリカ高め明確なポジ/ネガの表現を好む
ドイツ中立傾向理詰めのロジック重視で7〜8点に集まりやすい

絶対値でのグローバル比較はNG。文化の違いを加味して、自国内での相対比較/変化のモニタリングが基本です。

「NPSは万能か?」──誤解と限界

NPSの“限界”
限界点解説
単一指標たった1問でロイヤルティを測るため、理由・背景がわからない
行動との乖離「勧めたい」は言うけど、「実際には買っていない」ケースもある
国民性バイアス前述の通り、文化による回答傾向の違いが大きい
点数の主観性7点と8点の違いが人によって大きく異なる(段階評価の曖昧さ)
補完手法として推奨される調査
追加設問目的
「なぜそのスコアをつけましたか?」(自由記述)NPSの背景要因を特定(テキストマイニングにも活用)
購入意向・再購入意向実際の行動との接続を見る
接点別評価(チャネル、接客、商品など)改善ポイントを特定するための要素分解

NPSスコアの分析・解釈のポイント

 絶対スコアではなく、「差分」「変化」に注目
観点解説
時系列変化前月→今月で+10ポイント → 改善策が効いている可能性
競合比較自社:+20 競合A:+15 → リードしている
セグメント別20代女性で+30、40代男性で−10 → ターゲット別に評価の濃淡を把握
クロス分析で因果のヒントを探る

例)NPSスコア × 購入頻度/接客満足度/店舗滞在時間 などをクロス集計
→ 高NPS層の行動特性を探る
→ ロイヤル顧客の育成プランに転用できる

まとめ:NPSは“単独で使わない”のがプロのリサーチ

誤解正しい理解
NPSが高い=すべてうまくいっている背景が見えなければ、対策は打てない
NPSが低い=失敗文化や業界標準を踏まえて判断する必要あり
単月でNPSが下がった=すぐ改善施策を季節性・キャンペーン・外的要因を踏まえ、トレンドで判断

★実務でのNPS活用Tips

・スコアだけでなく、「プロモーター/ディトラクターの割合」もチェック
・セグメント別のNPS差を比較し、重点改善領域を明確化
・「NPS×自由回答」でVoC分析を組み合わせる
・時系列でNPSをKPI化して、CX施策の評価軸にする
・グローバルブランドは、国別NPS基準値(ベンチマーク)を設ける